―――いない。
屋上に居ると思われた相手は重いドアを開けてもけれど見当たらなくて、山本はひとつ息を吐く。
握り締めたままだった花束はすでに折れかけている。
第31回並盛中学卒業式。山本達3年生にとって中学生活最後のイベントだ。
長く堅苦しい(そして何度も予行を重ねるものだから飽きてしまった)式が終わると、体育館から出て来た山本を学年を問わず学校中の女子が取り囲んだ。
可愛らしい手紙やプレゼントをくれる子もいれば、制服のボタンをくれとせがむ子もいて、身動きが取れないくらいにもみくちゃにされる。
笑顔でそれに応えながら、先に体育館を出ていた筈の獄寺の姿を探すと、花壇の前に同じように女子に囲まれている獄寺がいた。
彼は辟易した顔を隠そうともせず視線を宙に彷徨わせている。こちらを見ないかな、と期待してみるが獄寺はツナを探していたらしい。
目的のツナを見付けると、途端に笑顔になって女子のことなどお構いなしに輪を抜けて行ってしまった。
(あー……、)
俺もそっち行きたいんだけど。とは思うが山本にあれは出来そうにない。
これも人の良さなのか、他人の行為を無碍にすることは出来なくて、結局波が去るまで女子達に付き合うことになってしまった。
漸く女子の攻撃から開放されて、昇降口前にいた野球部の面々と軽く言葉を交わしてから山本は一階から屋上までを駆け上る。
一人になってすぐツナの元へ行ってみたのだが、、一緒にいるのかと思っていた獄寺はおらず、ツナも途中で何処かへ行ってしまったのだと話していたからだ。
獄寺はたぶん、屋上にいる。
勢いよく錆びがかった鉄のドアを押し開くが、そこに獄寺の姿はなかった。
いつにもなく全速力で走って来たからか、らしくもなく息が上がってしまって、山本はその場にしゃがみ込む。
「ったく…何処行ったんだよ、ごくでらぁ」
ブレザーも、ワイシャツまでも全てボタンをあげてしまったせいで、山本の服は乱れに乱れている。開ききった胸元にまだ冷たい3月の風が吹き付ける。
「ごくでらーなー出て来いよー」
言いたいことがあるんだ。今すぐ。だから出てきて。
誰にともなく声に出すと、給水塔の裏で人影が動く気配がした。
「………うるせーと思ったらてめぇかよ。何の用だ」
不機嫌なのか、疲れきっているのか、気だるい歩調で獄寺が歩いて来る。獄寺のブレザーも、シャツも、山本と同じようにボタンを全て毟り取られていた。
「やっぱり、いた」
山本は笑って立ち上がる。この2年半で培った獄寺レーダーは百発百中なのだ。
「どうせ後で10代目のお宅にお邪魔するんから嫌でも会うっつーのに。何なんだよ?」
そういえば卒業式の後はツナの家で卒業パーティをしようということになっていたのだ。勿論そこに山本も呼ばれているから、すぐにでも獄寺とは顔を合わせる。
けれど、そこでは駄目なのだ。
「うん、あの……、」
山本はブレザーのポケットに忍ばせておいたそれを一度強く握り締めると、勢いをつけて獄寺の前に差し出した。
「これ」
掌にはブレザーのボタン。実は女子に取られる前に、一つだけ自分で確保していたのだ。
「俺の、第二ボタン…なんだけど。獄寺に、貰って欲しくて」
―――好きなんだ、獄寺のこと。
上手く言葉に出来ていたか判らない。あまり緊張しない性質の山本なのだが、唇が震えてしまい声がよく出なかったかもしれない。
少しだけ緑色の瞳を見開いた獄寺は、けれど次の瞬間には呆れたようにバッカじゃねぇの、と肩を竦めた。
「え………、」
「いいか、第二ボタンてのはな、学ランの『心臓に一番近い場所』にあるボタンだから大事なんだよ。ブレザーの第二ボタンなんて普通に腹のあたりじゃねぇか」
「え……あ、そう、なの……?」
「日本人のクセにそんなことも知らねぇのか。……まぁオレも受け売りだけどよ」
「そか……はは、」
揶揄るように言われてしまい、山本は肩を落とす。
一世一代の告白のつもりだったのに、自分の知識不足のせいで台無しになってしまった。きっと獄寺は阿呆な奴だと思ったに違いない。
穴があったら入りたい、と落ち込む山本を知ってか知らずか、獄寺はまぁでも、と言って手を伸ばす。
「折角だから貰っといてやるよ。おまえが3年間世話になったボタンだもんな」
「獄寺……、」
「けど、オレはボタン何も残ってねぇからな。今更くれとか言われても遅いぞ」
山本からボタンを受け取った獄寺は、満足そうにそれにひとつキスをする。自然なその仕草に見惚れていると、視線が恥ずかしかったのか、ぷい、と獄寺はそっぽを向いてしまう。
「いや、いいよ。これは俺があげたかっただけだから。………あ、じゃあ。じゃあさ」
「じゃあ?」
「高校の卒業式に、獄寺の第二ボタンくれよ。それで平等だろ?」
3年後。ささやかな未来の約束を取り付ける山本に、獄寺は苦笑した。
「高校の制服もブレザーだっつの、ばぁか」
卒業式で妄想。
隼人何も応えてないですがちゃんと両思いです(笑)
(2007.8.27)