こんなに近くで



言えるわけない。

……好きだ、なんて。




ふとしたときに左肩の斜め45度に視線を投げる癖がついた。
教室の端に居ても能天気な笑い声を聞き分ける自分に気付いて。
自分にはない清廉潔白なその姿を見るとどうしようもなく胸が苦しい。
バットを握る大きなその手がほんの少し触れた瞬間
涙が零れそうになった。


それが恋だと、気付かない程オレは馬鹿でも子供でもなかった。





いつからとか、どうしてとか、そんなの考えても無駄だとすぐに放棄した。
10代目が全てだったオレの世界に無理矢理入り込んできたあいつ、を認識するまでにそう時間は掛からなかった。
人懐こい犬みたいな顔で寄って来て、いつだってバカみたいに笑って見せて。
ごくでら、そうオレを呼ぶ声は清清しくて優しい。後ろ暗さの欠片もない、平和な世界の男。
オレにはない、『光』を背負った男。

…そんなところに、惹かれたのかもしれない。





「ごくでら……獄寺?大丈夫か?」
ぼんやりと煙草を燻らせていたら、横から声を掛けられた。
退屈な授業をエスケープして屋上で一服していたのに、どうやら山本も抜け出して来たらしい。
「何だ…おまえか。大丈夫って何がだよ」
「何っていうか…俺が来ても気付かなかっただろ?獄寺っていつも気配で判るのに、珍しいなって」
「………」
「ていうか、顔色悪いぜ?本当に大丈夫?」
熱でもある?と不意に右の掌がオレの額を包み込む。びくりと肩が竦んだ。
「ちょっ…、」
「熱はないみたいだけど…風邪かな?ほっぺた赤いし、寒いんだろ」
「ちが、違う」
硬い掌の感触と温もり。高潮する頬と同時にじんわりと涙腺が緩むのを感じる。
潤んだ眼を見られたくなくて視線を逸らすが、山本は不思議そうに首を傾げた。
「獄寺?泣いてるの?」
この超絶鈍感馬鹿。そんなんだから彼女出来ねーんだ。いや、作られても困る、けど。
額を覆っていた掌が、するりと頬へ移動する。
まるでキスされる直前のような体勢で、顔を覗き込まれて。
「獄寺?」
「っ…寝不足だ!寝不足!いいから離せ馬鹿っ!!」
必死でもがいて距離を置く。心臓が飛び出そうに早鐘を打っていて、痛い。
こんなの、こいつにとってはいつものことなのに。
これがオレじゃなくたって、例えば10代目でも、他のクラスメイトでも、同じ事をする筈なのに。
なのに、たったこれだけで、苦しくて、苦しくて、どうしようもなくシアワセなオレはどうしたらいい?

―――初めて会ったあの時に戻って、こいつは駄目だと自分に言い聞かせられればいいのに。
でもそんなことをしたって無理だってことは、オレが一番良く知ってる。


「獄寺………?」
懲りない山本がまた腕を伸ばして来る。
オレはきっと拒めない。
次に触れられたらきっと、オレは覚悟を決めてしまうだろう。
「ごくでら」
愛しい声がオレを呼ぶ。その、次の瞬間。











元ネタはニコ動の山獄MAD(笑)
Crystal Kayの「こんなに近くで…」で妄想。
山←獄って自分の中では結構珍しいかも。勢いで書いたのであとで読むのが怖いぜ(笑)
(2007.10.24)