こいのうた(サンプル?)
――きっとこの恋は、口に出すこともなく、伝わることもなく、
……叶うこともなく。
「獄寺!」
名前を呼ぶ声に立ち止まる。書類の束を抱えたまま、獄寺は首だけを廻らせて後ろを振り返った。
肩越しに小走りで追って来る山本の姿を認めて、ほんの少し息を詰める。
「……何だよ、」
「今、ツナから聞いたんだけど。今夜あっちのボスと会食だって」
『あっちの』とは、最近何かとボンゴレと衝突しているエッフェファミリーのことだ。
イタリア西部を本拠地としている中堅マフィアなのだが、どうやらイタリア全土に足を伸ばし始めたらしく、ここのところ各地で他ファミリーと諍いが起こっていた。
ボンゴレは暫くの間静観していたのだが、この数ヶ月の間で急激にボンゴレのシマを荒らし始めた為、とうとう10代目も黙っていられなくなったのだ。
「ああ、それか。残念ながら今回筋肉担当の出番はないぜ。【ボンゴレボスの右腕】をってのが奴さんからの直々の条件だからな」
「ご、獄寺がわざわざ指名されたのか?護衛は?何人連れてくんだ?」
「1人だ。それ以上は連れて来んなってよ」
「1人か……」
何故か山本が難しい顔をして黙り込む。
何が言いたいんだと問い詰めると、もごもごと言い淀んだ後、言い辛そうに山本が獄寺を伺い見た。
「もしかして、獄寺知らなかったりする?……あそこのボスに、そっちの気があるらしいって噂」
「……は?」
「や、 噂の域は出ないんだけどな!ただ、エッフェのボスが側近に置くのは美形の男ばっかなんだって話でさ。奥さんとは早くに死別してるらしいけど、それ以来女の
影は全くないらしい。あれだけのファミリーなら、囲ってる女の一人や二人いたっておかしくないのに……ってな。獄寺キレーな顔してるし、指名だっていうか
ら余計心配っていうか……」
ま、まぁあくまで噂だけどな!ともう一度断って、山本は取繕うように笑う。
その笑顔には下心なんて微塵もなくて、一瞬でも胸を高鳴らせた獄寺は、気まずさに視線を逸らした。
――こいつが心配しているのは、オレが仲間……友達、だから。それ以上でも、それ以下でもない。
きゅ、と唇を少し噛んで、それから獄寺は不機嫌そうに山本を睨み付ける。
「ばーか。オレを誰だと思ってんだよ。色ボケジジイなんかにいいようにされてたまるかっての」
「ははっ、まぁそうだよな!」
いつもの様に獄寺が悪態をつけば、山本もいつも通りの笑顔で変なこと言ってごめんなと謝る。
その後は他愛のない会話を一つ二つ交わして、何事もなかったように別れた。
遠ざかって行く山本の背中を見ながら、獄寺は息を小さく吐く。
中学の頃からずっと押し込めていたこの想いは、爆発することもなければ消えることもなくただそこにあって。
これからもずっと、微熱のように人知れず獄寺を悩ますのだろう。
………きっと、一生。
*RM4で配布したペーパーに載せたSSを手直ししました。
インテ新刊のサンプルみたいな感じです。
(2011.1.12)