KISS and YOU



3日前、初めて山本とキスをした。


イタリア育ちの隼人にとってキスというのはごく身近なものであったし、軽いものなら経験もある。
けれど恋愛感情の伴うキスをしたのは、山本が初めてだった。









3日前には一度だけ。一昨日は二度。昨日は5回唇を合わせた。
最初は触れるだけだったそれが、回数を重ねる毎に深くなっていって、昨日はほんの少し伸びた舌で唇を舐められた。
驚いた隼人が山本の腕を掴んでいた指先に力を込めると、唇はすぐに離れて山本は困ったような、ほっとしたような顔で笑っていたのだが。
あれから隼人は、そのことが頭から離れないでいる。








唇を重ねるよりもっと深いキスがあることは知っている。
あのとき隼人が素直に唇を開いていたら、山本はそれ、をしたのだろうか。
唇に触れた舌先の感触が一日経った今でもまだ思い出されて、隼人は無意識にそこに指を添わせた。

「―――獄寺くん?」
突然掛けられた声に隼人はびくりと肩を揺らす。
ここは学校の屋上で、今は昼休みだった。
隼人の目の前には綱吉と、―――山本。隼人は取り繕うように笑って見せる。
「スイマセン10代目。ぼーっとしてました」
「体調でも悪いの?」
「や!全然!ちょっと寝不足なだけっす」
心配そうな視線を向けて来る綱吉から逃れるように視線を逸すと、その隣りの山本と目が合った。
「………、」
山本はいつものように脳天気に笑っても、綱吉のように心配気な顔もしていなくて、隼人は息を詰める。それはまるで、―――




「獄寺、ちょっと来て」




言うや否や山本は有無を言わせず隼人の腕を取る。
「ちょっ、」
慌てて、けれど拒絶出来ない隼人が半ば引き摺られるように山本に付いて行くのを、綱吉は不安そうな、呆れたような顔で見送っていた。












「山本っ、何す……」
連れて来られたのは屋上へ繋がる階段の裏。
奥まっている為通り掛かりに見付かる事はないが、大声を出せば聞こえてしまう場所だ。
隼人が思わず張り上げた声を咎めるようにシィ、と人差し指を立てて、山本は曖昧な笑顔で隼人に向き直る。
「な…んだ、よ」
「んー……」
ここまで連れて来た理由を言えと隼人は睨み付けた。けれど山本は歯切れ悪くすいと視線を逸らしてしまう。その仕草にイラッとして、隼人は山本の胸倉を掴んだ。
「なんなんだ、よっ」
「えーと…その………」





――――ごくでら、気付いてない、の?






横目でちらりと隼人へ向けた視線が困惑している。なにが、と問えば山本はあーとかうーとか言葉ともつかない言葉を発した後、恐る恐る声を乗せる。
「……獄寺さ、今凄く………ちゅー、したいでしょ」
「なっ……!?」
「さっき、昨日のこと、思い出してた?」
「っ………!!」
違う、とすぐさま否定出来れば良かった。けれど、それは無理だった。だって本当のことだから。
山本からはいつの間にか笑顔が消え、先程の表情に戻っている。
それは昨日、キスする直前に見た山本の、酷く男臭い眼差しによく似ていて。
「――――――やま、」
「獄寺、キスしていい?」
確認したくせに返答を待たずに山本は隼人の肩を引き寄せて、急くようにキスをして来た。
唇が触れて、隼人は小さく身震いする。欲しかった感触と、期待。おずおずと唇を開けば、待ちかねたように舌が入り込んで来た。
「ンぅ……、―――」
どう応えていいか判らず、山本に翻弄されるまま舌を差し出す。舌先に山本のそれが触れると勝手に身体が震えた。
息継ぎの仕方も良く判らないまま溺れるようなキスをする。やがて、酸素が足りなくなったのか、それとも別の理由か(隼人は自分でも判らなかった)かくりと膝から力が抜けた。
「っ……と。獄寺?」
崩れ落ちる前に腰を山本に抱き留められる。隼人は山本の腕にどうにかしがみつきながら、頭一つ分上の緩んだ顔を睨み付けた。
けれど山本には全く効果はないようだ。隼人の視線を受けて山本は緩んだ顔をさらにへらりと崩す。
「っくそ……むかつく」
「え?なにが?」
すっかりいつもの調子に戻った山本がしゃあしゃあと聞き返して来る。
何でもねぇよ!と八つ当たりのように頬を抓ってやると、山本は痛いよごくでら、とちっとも痛くないようなにやけた顔で、頬を摘む隼人の手を掴みそのまま指先を絡めた。
されるがまま掌を預けていると、その手を唇に寄せてチュッっと音を立ててキスされる。
「ちょっ、」
突然の気障な仕草に慌てる隼人のことなど気にする様子もなく、山本がなぁ、と意味深な顔で隼人を見遣る。
「嬉しいけどさ、さっきみたいな顔は学校でしないでな」
「……は?」
『さっきみたいな』と言われても隼人には全く思い当たらない。
何かおかしな表情をしていたのだろうかと首を傾げると、苦笑した山本が隼人の耳元でこっそりと言った。
















「………凄く色っぽい顔、してたよ。さっき」







我慢出来なくなるからさ、と低い声で言う山本の脛を、隼人は力一杯蹴り上げてやった。










キスしたい隼人、がテーマでした。
1ジャンルで1回は書く受がちゅーしたいシリーズ(笑)
(2008.06.22)