9 settemberプレビュー



1.綱吉






学校が終わって家に帰ると、ビアンキが人んちの台所で何やら大掛かりな作業を始めていた。台所の前を通り過ぎようとしていたおれは思わず立ち止まる。
「な……何してんの?ビアンキ」
開け放たれたドアの外から中を覗き込んで、恐る恐る尋ねると、一瞬手を止めたビアンキがゆっくりと振り返りおれを見る。
「っ……!」
ただ見られただけなのに、あまりの威圧感に身を竦める。声を掛けてはいけなかったのかと後悔していると、ふいと視線を外し作業を再開したビアンキがいつもの低いテンションで言った。
「隼人のバースデーケーキを作ってるの。明日が誕生日なのよ」
「ああ、バースデーケーキ……」
「そうよ」
見て判らない?とでも言いたげにビアンキは掻き混ぜていたボールを傾けて中身を見せてくれる。
右手には泡立て器を持っていて、確かにケーキを作ろうとしているような気はしなくもない。ボールの中身がちゃんとした食材だったなら。
その明らかに食用ではない赤だか青だか緑だかよく判らない色のタネが、最終的にどんな物体に変化するのか想像するだけで怖くなって、おれは生返事を返してその場を足早に立ち去った。



何となく家の中にいたくなくて(ビアンキに味見してみて、とか言われたら死ぬ)鞄をリビングに放り投げるとおれは制服のまままた家を出た。

(そっか、明日獄寺くん誕生日だったんだ……)

帰宅部のお陰で、一旦家に帰ってもまだ日は高い。店はまだ開いているし、知ってしまった限りは何かお祝いしてあげるべきだろうかと思い、ふらりと駅前の商店街に足を向ける。
今日の明日だからたいしたものは買えないけど、何もないよりはマシだろう。
「……あ、そうだ」
そういえば夏前からずっと工事をしていたCDショップがつい最近新装オープンしたのを思い出す。
狭い町内で一番品揃えの良い店だったから、学生は皆そこに通っていた。おれたちも例外ではなくて、よく学校帰りに獄寺くんと山本と三人で寄り道していたのだが、改装工事のせいで暫く行けていなかったから、買いたいCDが溜まっているのだとついこの間獄寺くんが言っていたのだ。
(ちょうどいいや、おれも欲しいCDあったし)
悩む時間も勿体無いし、名案だとばかりにおれは足早に店に向かった。


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