2.獄寺隼人
ピアスを初めてあけたのは、高校の卒業式の日だった。
『彼』が無事に高等教育課程を終了し、そして正式にボンゴレファミリーの次期ボスとなる決意を固めてくれた日でもある。
病院であける気はなかったので、家で山本にあけさせた。山本は最初複雑そうな顔をしていたが、これがオレのけじめだと伝えると、やはり複雑そうな顔のまま、黙って丁寧に消毒まで施してくれた。
翌日顔を合わせた『彼』はオレを見て一瞬驚いたようだったが、すぐに微笑んで似合うね、と言ってくれた。
―――折角だから髪切ったら?耳出した方がよく見えるよ。
続けてそう言ってくれたので、オレはすぐに髪を切った。
オレの命は『彼』のために。
その決意は初めて出会った頃から変わっていない。『彼』はあまりいい顔をしないけれど―――オレはそれでいいと思っている。
中学時代のように闇雲に命を捨てるつもりはない。ただ、“必要なとき”が来たらいつだってそれを賭す覚悟は出来ている。
―――獄寺ってさ、危ういよな。
山本がそう言ったのはいつだっただろう。詳しくは思い出せないが、確かまだお互いに―――少なくともオレは、意識すらしていなかった頃だ。たまたま、『彼』が風邪をひいたとかで学校をお休みになっていた気がする。
その頃のオレは勿論山本の言葉の意味など汲み取ることは出来なくて、いきなりなんなんだと喰って掛かったのだが、それをするりと交わして山本は言葉を続けた。
『…獄寺ってさ、自分がいついなくなってもいいようにしてるみたい』
『―――は、』
『自分が執着するのはいいけど、人から執着されるのは怖い、って感じする』
山本のくせにやけに勘の良い科白だったので、オレは反論出来なかった。それはたぶん普段の脳天気な顔からは想像も出来ないくらい真剣な表情をしていたから、というのもあるかもしれない。
思わず視線を逸したオレに、山本はぽつりと一人言のように言った。
『―――だから、放っとけない』
……ああ、そうだ。あいつから告白されたのは、そのすぐ後。
二つ目のピアスホールは二十歳の誕生日にあけた。
プレゼントに、と『彼』から頂いたピアスと、似合うと思って、と山本から贈られたピアス、どちらをつけるか迷って、悩むくらいなら2つ付けてしまえばいいと思ったからもうひとつあけた。
その時もピアッサーを手渡したのは山本で、あいつはまた何かを言いたそうにしていたが、オレはそれに気付かない振りをした。
ぷつ、と針が肉に貫通する感触があった直後、山本はオレの後ろ髪をさらりと撫でた。
『俺、獄寺の髪、好きだよ』
突然そんな事を言われたから、ついピアスと関係あるのか?と聞いてしまった。すると山本は、あるようなないような、と言って曖昧に笑った。
『どういう事だよ?』
『んー……。獄寺が俺に執着してくれたら、嬉しいってことかな』
ツナとは違う意味で。
急に『彼』の名前が出て来て驚く。『彼』とは違う意味で?当たり前だ。あの方はオレの全てで、絶対の存在なんだから。
言葉に出さずともオレの考えは山本に伝わったのだろう。うん、と誰ともなしに頷かれる。
『俺、獄寺が好きだよ』
『……10代目と、今の言葉と、何か関係あんのか』
『俺は獄寺に執着してる。獄寺に死んで欲しくないし、俺も獄寺の為に絶対死なない』
『………、』
『獄寺はツナの為に死ぬんだろ?それなら、』
―――それなら、俺の為に、生きてよ。
そんなの無理だ、とも、矛盾してるじゃねぇか、とも言えなかった。
オレは黙って山本にキスをした。
最近、髪伸ばしてるの?
10代目がさりげなく振った話に、オレは動きを止める。今日これから幹部会に使う資料を纏めているところだったのだ。
「えーと…、変、ですかね?」
前髪は短いままなのに、サイドから伸ばしている髪型はおかしいだろうかと恐る恐る顔を上げると、長机の反対側で出来上がった原稿をチェックしていた10代目がオレを見て微笑んでいた。
「ううん、変じゃないよ。ただ、前は伸びるとすぐ切ってたじゃない?だからどうしてだろうって」
昔はあのヤブ医者に少しでも近付きたくて、髪型だけでもとやっきになっていたのだ。今考えるとおかしいが、あれもひとつの『執着』だったのだろう。
さすがに今はそんな幼稚な自己表現をしているつもりはないのだが…。その代わりに、ひとつ、オレの中に増えたものが。
「まぁその……我儘なヤローがいまして」
「ふうん?」
「―――一番じゃなくていいから、執着して欲しいんだそうですよ」
『その時』が来たらオレはどうするのか、まだ判らないけれど。
あいつが好きだと言った髪を伸ばすことで、少しでも自分をつなぎ止めることが出来るんじゃないかと、そう思う。
「―――獄寺くんなら、正しい選択をしてくれるって信じてるよ。おれも、山本も」
「……はい、」
失うことの出来ない、ふたつの大切なもののために。
山本武の対になるお話ということで隼人視点でした。
ピアスと髪を伸ばしている理由を妄想。
(2007.9.30)