1.山本武
昔、獄寺に言われたことがある。
『おまえは生まれながらに殺し屋なんだと。リボーンさんが言ってた』
何かの会話の流れの中のことで、小僧から直接聞いた訳ではないし、獄寺もそれ以上は何も言わなかった。
ただその口調は決して褒めているようではなかったから、その時の俺は何も問うことも出来ずにその会話は終わったのだが。
今になってみると、あれはこういうことなのだろうかと思うようになった。
敵を前にするとぞくぞくとした高揚感が体内を駆け巡る。強い敵、圧倒的にこちらが不利な状況なら尚更だ。
相棒の刀と一体になって敵を薙ぎ倒す快感が身体を支配する。戦いの最中は、愉しい、と純粋に思う。
殺しがしたい訳じゃない。初めて人を斬った日の夜は震えが止まらず、一晩中獄寺にしがみついていたこともあった。
今だって、殺した相手への弔いの気持ちは忘れていないつもりだ。
ただ、理性とは別のところにある本能が、戦うことを望んでいる。刀を振り下ろす瞬間にしか味わえない満足感がある。
…思えば、幼い頃からバットを握っていたのはそのせいなのかもしれない。
そんな俺が戦うことに初めから難色を示していた獄寺が、俺の戦い方に口を出したのは、共にマフィアとしてイタリアに渡ってから3度目の『仕事』の時だ。
―――突入10分前、各自持ち場にて待機。
ボスから下された命令に従い、俺と、パートナーの獄寺は敵の屋敷のすぐ脇に姿を潜めていた。
その時も俺は、これから始まる戦いに気分が高まっていて、やけに饒舌になっていたんだと思う。
子供のようにはしゃぐ俺を見て、獄寺は眉を顰めて言った。
『テメェの戦いは見てて危なっかしいんだよ』
『え?』
勿論、俺にはその言葉の意味は判らなかった。俺は戦いの最中だって、理性を捨てている訳じゃない。死ぬのは怖いし、必ず生きて帰ると決めている。
それを言うなら、俺よりも人一倍血の気の多いお前の方が危なっかしいんじゃねぇの?苦笑して返すと、獄寺はそういうことじゃないと首を振った。
俺がその意味を掴めないでいると、獄寺は徐に自分が嵌めていたリングを外し、胸ポケットに仕舞われていた匣と一緒に俺に手渡した。
『くれんの?』
『オレじゃ相性が悪かった。おまえならたぶん使えるだろうよ』
その頃には俺も獄寺もひとつずつ匣を持っていたが、獄寺がもうひとつそれを手に入れていたことは知らなかった。リングの方は最近よく付けていると思ってはいたけれど。
新しく増えたリングを嵌めると、不思議としっくり指に馴染んだ。
獄寺は「やっぱりてめぇに指輪なんて似合わねぇな」と笑った後、不意に真剣な表情で俺の手を取った。そして、俺の武骨な指に―――正確には指に嵌められたリングに、恭しく接吻けを落とす。
『ごくでら…?』
『間違えるなよ』
獄寺の緑の瞳が真っ直ぐに俺を見上げる。
『おまえは“殺し屋”じゃない。……おまえは、ボンゴレファミリー10代目沢田綱吉の片腕だ』
その言葉の意味を知ったのは、もう少し後になってからだ。
それ以来俺は、戦いの前には必ず『誓い』を立てるようになった。
刀を抜く前に右手のリングに接吻ける。深く息を吐いて、獄寺の言葉を思い出す。
沢田綱吉の部下であること。それから獄寺隼人のパートナーであること、を忘れないように。
そして俺は刀を振り翳す。
「―――いくぜ!!」
*16巻で山本が指輪してるのを見て妄想。
指輪に誓いのキス、を贈る山本ってかっこいいと思うんですよね…!!
(2007.8.6)