ハッピーバースデー



午後23時45分。

マンションの目の前で立ち止まった山本は、獄寺がいるであろう部屋を見上げてひとつ溜息をついた。

(ここまで来ちゃったけど……良かった、かな)




明日――後もう15分後には明日になるが、9月9日は、獄寺の誕生日だった。
去年の誕生日は、ツナや他の友達と盛大にパーティをした。
今まであまり祝われ慣れていなかったと言う獄寺は(それでも子供の頃は比ではない程に祝われていたのだろうけど)、どうしていいか判らないという顔で慌てていたけれど、とても嬉しそうに笑っていて。
今年もパーティしようね、とツナが言ったときは真っ先に賛同したけれど、欲張りな山本は誰よりも先に獄寺を祝ってやりたくて、居ても立ってもいられずに家を飛び出していたのだ。

山本が欲張りになってしまったのには理由がある。
去年のこの日、山本と獄寺はまだ"友達"だった。
今年は……所謂"恋人”という関係で。

告白したのは、去年の誕生日パーティの後だ。
ツナの家でのパーティがお開きになって、二人きりの帰り道で、気持ちを伝えた。
期待半分、諦め半分で当たった結果は、真っ赤になって小さく頷いた獄寺が雄弁に教えてくれた。

だから、去年の誕生日、一番最後に獄寺を祝ったのは山本だった。
今年は、一番最初に祝いたい。


勢いのまま、メールもせずに飛び出してしまったから、もちろん約束なんてしていない。
いくら恋人だからって、こんな夜中に突然押しかけられたら迷惑じゃないだろうか、と我に返って逡巡する。
しばらくマンションの前をぐるぐるして、それから意を決してエントランスに足を踏み入れた。
顔を見て、おめでとうと言えればそれでいい。それだけ伝えられたら大人しく帰ろう。
そう思いながら、足早に階段を駆け上がった。








「ハッピーバースデー獄寺!!!」

玄関を開けた瞬間そう言って抱きついた山本に、獄寺は一瞬呆然として、それから慌てて山本を引き剥がした。
「なッ、に、してんだこんな夜中に!」
「や、誕生日を祝いに」
ほら、9月9日。と腕時計の文字盤を見せると、獄寺はそんなん知ってる、と視線を逸らす。
あ、それは照れたときの仕草だ。山本は思う。獄寺は照れたとき、ちょっと不機嫌そうに視線を斜め下に落とすのだ。
「誕生日おめでと、ごくでら。今年は一番にお祝いしたかったんだ」
「っ……何言ってんだ」
ストレートに言って微笑むと、獄寺が少し頬を染めて悪態をつく。
けれど満更ではなさそうだったので、山本はほっとしてそれじゃあ、と挨拶をする。
獄寺はそれを聞いて不思議そうに首を傾げた。
「上がってかねぇのか」
「え……上がってもいいの!?」
「別に……つうかほんとにそれ言う為だけに来たのかよ。アホだなぁおまえ」
くすくすと笑う獄寺が可愛くて、言い返す言葉も喉の奥に引っ込んでしまった。



翌朝の獄寺は、何故か寝不足でへろへろになっていた訳だけれど、その晩何をしていたかはご想像にお任せで。










*ハピバ隼人!!
(2009.9.9)